映像アーカイブの今後(2026)
芸術の映像アーカイブの進む方向 2026
Ufer! Art Documentary 岸本 康
美術館、博物館のDX が語られる機会が増えているように感じますが、静止画を元にしたデジタル化が中心のようです。
昨年、文化庁が発行された「ミュージアム DX 実践ガイド」では美術館、博物館のデジタル化に取り組む場合の進め方が記載されています。作品データのアーカイブは重要ですが、額装されて展示室で展示されたものと比べると、そこから受ける雰囲気や作品の発するものはまた別のものに感じられる事もあります。展示される場所、他の作品との組み合わせ、建物や壁の色や照明など、その場所の音や雰囲気など様々な要素が組み合わさり作品を観ることで作品は鑑賞者にインプットされている筈で、それがそれぞれの館の個性であり力量のようなものになっているのかも知れません。
こちらに興味深い記事がありました。「デジタルアーカイブとは何か ― 博物館資料の新たな存在論」
「アウラとは、芸術作品や文化財が本来持つ、時間的・空間的な唯一性や、その場にしかない「雰囲気」のようなものを指します。複製技術が進むことで、こうしたアウラは失われるとされてきましたが、近年では、デジタル環境においても新たな文脈の中で意味や価値が再創出される可能性があると考えられています(Cameron & Kenderdine, 2007)。」
国内の様々な美術館のWebサイトで過去の展覧会のページを見ても、その展示風景が掲載されている事は稀で、ほとんどの場合、snsの投稿に残っていたり、第三者のニュースページやwebマガジンのサイトに残された展示風景を参照するしかないケースが意外と多いと感じています。(著作権処理などの問題もあるかも知れませんが)しかしこれは鑑賞者にとって残念です。
それぞれの館で展示風景の静止画は記録されていると思いますので、それを使って展覧会やコレクションの展示アーカイブをweb上で公開する事がミュージアム DXのはじめの一歩ではないかと思っています。作品データを小さくしたものがwebに並べてあっても美術の教科書を見ているようです。webに音声ガイドやギャラリートーク動画を付加する事で、ミュージアムへのアクセスが鑑賞者により近いものになると考えます。
「でも予算も時間もないし・・」という事はよく聞きますが、新たな実践を発見する事もあります。昨年、大竹伸朗さんの個展が丸亀市猪熊弦一郎現代美術館でありましたが、そのオープニングに来た人に感想などをインタビューした短編動画をsnsで公開されていました。美術館のオープニングは様々な人が集まりますので、その時の来館者の発言などが残る事はとても貴重だと思います。インタビューするマイクには黄色い亀のイラストが付いていて、これも含めて感心しながら見ました。
私も時々、オープニングの撮影をする事がありますが、毎回来られる方も違いますから、存じ上げていない方も多くて・・。やはり顔をよくご存知の美術館の方が、これまでの関わりで、カジュアルに話しかける方がより良いインタビューが撮れると思います。96年の森村泰昌さんの横浜の個展ではオープニングの来場者の方にエスカレーターで上がってくる人に次から次にコメントをもらいました。今となってはそのコメントよりも当時のファッションなどが記録されている事が興味深く見られます。30年で変わりました。
こうした制作の中でどうしても必要なのは、美術館の編集方針や決定、いわゆるインハウスでの作業です。内容を理解した人が判断して撮影や編集に取り組む事で、質の高いアーカイブが構築出来ると考えています。それを実践している海外の美術館は数多いですが、中でもデンマークのルイジアナ美術館は、そのポリシーがはっきりしています。Louisiana Channel というwebサイトでは、ルイジアナ美術館が作成した動画が集められていて、視聴者は無料でログインする事で、自分の好きな作家や映像を保存出来るようになっています。美術館としても、どの地域の人にどんなコンテンツに人気があるなどのデータが逐次集まる訳です。このwebサイトのAbout usに記された文章があります。
We see Louisiana Channel as an integral part of a museum for the 21st century, capable of engaging a new generation in our cultural heritage, in an intelligent present and an ambitious future.It has always been Louisiana’s role to stimulate discussion of society through the insights of art and artists, and the same goes for Louisiana Channel.
「私たちは、ルイジアナ・チャンネルを、21世紀の美術館にとって不可欠な要素であると考えています。それは、私たちの文化遺産、知的な現在、そして野心的な未来へと、新しい世代を惹きつける力を持つものです。芸術とアーティストの洞察を通して社会に関する議論を刺激することは、ルイジアナの役割であり、ルイジアナ・チャンネルも同様です。」(Google翻訳)
15年くらい前に束芋さんの作品設営で1週間くらいルイジアナ美術館に滞在したとき、庭で三脚を立てて建物を撮影していたら、美術館のテクニシャンの人から声をかけられました。設営時に彼らは技術的な仕事をしていますが、展覧会が開くと作品の撮影もしているという話をしてくれました。まだ当時ルイジアナ・チャンネルは無かったので、このポリシーを読むと感慨深いものがあります。
また海を隔ててスウェーデンのストックホルム近代美術館では、作品のアーカイブ以外に、新規のインスタレーション収蔵品で作家が現存している場合には、なるべく正確に保存継承して行けるようなインタビューを行い動画を内作されています。「もしもこの壁紙の素材が手に入らなくなった場合は、どのようなもので代用すれば良いか」など、具体的にインスタレーションを将来的にもきちんと再現するための細かな疑問を含めた長めのインタビューがあって、私も機材関係についてどのように考えているかを話しました。言葉や表情を録画記録する事で、将来的にもその発言のニュアンスがくみ取れて作品の展示に役立てるという事です。あくまで非公開の美術館の内部資料ですが、作家の意向をなるべく後世に伝えようとする姿勢に感心しました。今後日本でも動画の記録コンテンツが各館に蓄積されて行くと共に、特に資料映像は中の人が作るのは自然な流れだと思っています。
オンラインで可能な共同制作
昨年(2025年)のこの時期にご案内しましたwebで、DaVinci Resolveによる共同編集について触れました。オンラインでプロジェクトを共有して編集を進める共同編集で、インハウス制作であっても必要な部分のサポートが遠隔で可能になっています。

映像編集ソフト Davinci Resolveのクラウド機能について
Davinci Resolveのクラウド機能を使うには、プロジェクトやデータを保存するストレージの契約を月単位でする事が必要ですが、500GBの容量で月額1200円程度(2026.1現在)で、共同編集に必要な時期だけ契約出来るので良心的な価格設定だと思います。30人まで参加できて支払いはホストの1名だけで他の人は課金されません。
具体的にできる事は、編集タイムラインを複数人でリアルタイムに遠隔から見る事が出来ます。編集操作出来るのはそのタイムラインを最初に開いた人ですが、他の人は、同じタイムラインのカラーや音声を平行して編集する事が出来ます。タイムラインを最初に占有した人が別のタイムラインに移れば、別の人が続きを操作出来るので、チャットやメッセージなどで連絡をしながら進めればスムーズに進行が出来ます。
プロジェクトを共有して他の人の編集を見ながら進められる事はスキルアップにも繋がりますので、最初は編集内容を見るだけの参加でも完成品を見るだけとは違った進化があると思います。
映像制作のソフトウエア
動画制作用として紹介しましたDavinci Resolveですが、無料版の他に業務用の機能を盛り込んだDavinci Resolve Studioがもあります。無料版で始めて、機能が不足したら買取(約5万円)でアップグレード出来ますし、無償版で作ったものもとプロジェクトは同じです。
静止画やベクトルのロゴなどにPhotoshopやillustratorを使われている方も多いと思いますが、これに変わるAffinityというソフトが昨年から無料になりました。一部Ai機能を使うにはCanvaのサブスクを使う必要がありますが、基本的な画像制作で困る事はなく、Photoshopの.psd、illustratorの.aiも開く事が出来ますので映像制作やその周辺の作業は、Adobeのソフトと使い勝手も同様です。。
さらに3Dを使って展示室のシュミレーションをしたいような用途ではBlenderがお勧めで、オープンソースのアプリの為に完全に無料で、業務用途に耐える複雑な表現が出来るようになっています。以前はGoogleのSketchUpが無料でしたが現在はサブスクのアプリになってしまいました。ここでご紹介したアプリは実際の利用で困った事があっても自力解決出来るくらいにYouTubeなどにもたくさん使用方法がアップされています。
おしまいに
映像業界的には、制作会社はお客さんと編集プロジェクト共有して手の内を全て見せてしまう事は、あまり浸透して行かないのかも知れません。ただ私の場合は、これからの10年くらいでこれまでのノウハウを少しでも美術館、ギャラリー、アーティストに伝達、継承出来ればと考えています。勿論、お仕事として一緒に出来れば嬉しいですが、そうでなくても一緒に考えられる機会があれば前進すると思います。
また先日、某美術館で聞かれた事ですが、当方で所有しています映像コンテンツを将来的にどのようにして行くのかという事についても、少しずつ考えて行きたいと思っています。
業務内容も少しずつ変化しています。撮影、設営、編集、コンサルと様々です。業務内容のページを更新しています。
もしもご興味のある方や、取り組みたいと漠然とでも考えておられる方は是非ご連絡頂けましたら幸いです。今後ともどうぞ宜しくお願い致します。
2026.1.19
