映像アーカイブの今後
芸術の映像アーカイブの進む方向
Ufer! Art Documentary 岸本 康
アーカイブを語る時に家族の遺品整理に似ているという考え方があります。当事者や身内にしか理解が及ばない事を整理して残す、将来にも活用出来るようにするという意味合いですが、美術館の活動でも同様の部分があると思います。その為、海外の美術館の中にはインハウスで映像記録を制作している所がありますが、特に凝った映像を作るという事ではなく、運営する中で記録したものをシンプルに公開されています。
例えばコレクションの設営風景が解説もなく美術館の日常として公開されているだけで、視聴者は興味を持ち、価値が生まれます。しかしこれはタイムリーに記録出来る事が必要で、外部から伺って撮影するには結果として、ほとんどが待ち時間になってしまいます。撮影には少しは撮影のスキルが必要ですが、それ以上に現場に居るということや、撮るべき場面を判断することがまず必要です。そして公開出来る塩梅が判断出来るのも中におられる人です。
MoMA の公開する HOW IT’S MADE: AT THE MUSEUM
残しておいて良かったと思えるのは何十年後かも知れませんが、未来では活用される事もあると思います。テープやディスクなどのメディアからファイルになった現在、どうやって残して行くのかという課題も指針はあるものの、使いやすさや、データベース化をいかに進めるかが課題です。完成したテーマをweb上で整理して見せる事で、それ自体がデータベース、アーカイブとして機能して行くことになると思います。
Louisiana channel のARTのページ
コンテンツを如何に整理して見せるかという課題の参考となるのがルイジアナ・チャンネルだと思います。展覧会の開催に合わせてインタビューや制作風景を中心に記録して公開されています。美術館内にテクニシャンがおられますので、その中で撮影の得意な方が担当さて、必要に応じて外注されています。見られるきっかけとして検索にかかりやすくするために、YouTubeでもLouisiana Channelとして動画を公開されていますが、webの方にリンクされているのはCMが入らないVimeoで公開されているものです。またwebの方に直接埋め込むとページが重くなってしまうので、サムネイルだけ取得してリンクさせているので軽快に見たいものを探して見る事が出来ます。当社でもまねをして委託を受けて制作して公開されているものをこちらにまとめました。
2020年のコロナ禍以降、美術館やギャラリーで動画配信が増えた訳ですが、今後はその資産を次へ繋げて行く段階に来ているように思います。同時に配信や制作も可能な部分はインハウスでというのがこれからの流れではないでしょうか。既に京都国立近代美術館ではライブ配信を内部で行われていますし、広島市現代美術館や高松市美術館では一部の動画制作を内作されています。公開まで至らなくても資料として撮影だけはされている事例も少なくないと思いますが、公開出来る形に少し編集をする時にお勧めしたいのが、 Davinci Resolveという編集ソフトです。
映像編集ソフト Davinci Resolveについて
Davinci ResolveはBlackmagic Design 社の製品で、業界を代表する映像編集ソフトの1つです。現状唯一、編集プロジェクトをネットワークで共有出来る機能があります。ネットワーク共有は2種類あって、社内LANの中で共有する「ネットワーク」と、クラウド上で共有する「クラウド」がありますが、どちらも編集プロジェクト自体をデータベースとして共有出来、双方で互換性があります。下の写真の例は、美術館別のプロジェクトライブラリー(フォルダーのようなもの)の中に、展覧会別のプロジェクトがあって、それを開くとムービー別のタイムラインや素材があります。
素材自体はLAN内の専用NASに置いたり、クラウドの場合はBlackmagic Design 社のサブスクで使えるクラウドサーバーに置いたり、あるいはプロジェクトの参加者が個々にSSD等で素材を保有するという方法も可能です。要はそれらの全てをDavinci Resolveがデータベースとして管理して素材とリンクするので、プロジェクトの参加者は皆が同じプロジェクトのタイムラインをリアルタイムで把握する事が出来る事で協業が可能になっています。

Davinci Resolveは、業務用として多機能な有償版Davinci Resolve Studio(48,980円)がありますが、無償版でもその7割以上の機能が使えて、基本的な編集をする十分な機能があります。勿論マルチユーザー共有機能も使え、Mac、Windows、iPadを問わずに使えます。Macの場合は2020年のM1以降のチップの搭載されたマシンであれば4Kの編集も可能です。コラボレーション機能について詳しくはこちらをご覧下さい。
十分な編集機能を搭載していて、コラボレーションが出来て、しかも無料で使えるソフトは他に例がありません。なぜ無償版があるのかという点については創業者のポリシーが大きく反映されています。ご興味のある方はこちらのGrant Petty/CEOのインタビューをご覧下さい。簡単に要約しますと、オーストラリアの田舎に住んでいたグラントさんは、若い頃、高価で手の出なかった映像制作機材を安くして、映像文化に貢献したいというビジョンを持ち続けているということです。現在、億万長者になってからもソフトウエアのコードを1従業員として書いているという仕事人でもあります。
私は編集がテープからファイルになってから20年ほどApppleやAdobeの編集ソフトを使い、昨年まではFinalCutProをメインに使っていましたが、ようやく2024年8月から当社で委託制作しています映像を全てDavinci Resolve Studioで制作する移行をしました。継続のプロジェクトなども多く、編集資産があるため、なかなか踏み切れずにいたのですが、コラボレーション機能によって複数人で作業が進められたりする事が他のソフトでは将来的にも厳しいという点から切り替えました。実際に運用が始まると想像していた以上に画期的な出来事に感じました。
今後、社内、館内で動画編集をされる時にDavinci Resolveを使っておられる事で、簡単に(クラウドのサーバーを使う場合は月に数千円の費用は必要ですが)それを複数人で共有出来ますし、制作を進めて行くだけで編集資産がデータベース化されて引き継がれて行きます。コラボレーション機能を使う事で手助けが必要な場面では、外部から編集者に参加してもらう事も出来ますし、慣れるまではそれを見本に進める事も出来ます。基本的にはどこにいても編集が可能な状態になります。今後は動画編集は全てを外注という感覚ではなく、一緒に制作してゆくという環境が安価に実現出来ます。これまで静止画やデザインでPhotoshopやillustratorを使っておられた方なら、動画編集は比較的簡単に始められると思います。

映像編集環境のコラボレイト化
これからの10年で映像制作は協業が進み、得意な部分を専任者が行うような形へ変化してゆくと思います。またそのことによって、より制作者の意思が直接盛り込まれ、内容的な質が高まって行くのではないかと考えます。当方ではこれまでもVimeoのレビューページに御担当者からコメントを入れていただくような形で協業していた部分もありますが、より踏み込んだ形で編集に参加いただく事が可能になったスタートがおそらく今年2025年になると思っています。
2025.2.5