美術分野でのDVDの可能性

                                 岸本 康


 昨年10月にDVDの市販ソフトのパッケージの出荷がついにVHSを上回ったとアナウンスがあった。
 レコードがCDになった以上の展開かも知れない。家庭でのテレビ、ビデオ(VHS)の国内普及率は言うまでもない。今後放送は地上波もデジタル化されるが、どのあたりまでの画質を市場が求めるかが、普及の鍵になるだろうし、受像機の価格などを含めてハイビジョンの様な失敗は許されない。
 さてそんな状況の中、DVDの美術分野での利用について考えてみたい。
 DVDと一言で言っても数種類のフォーマットがあり、現状は熾烈な競争が起こっている。基本的に見る側としてなじみのあるのは、DVD-Videoという市販ソフトのフォーマットだ。CDと同じように好きな所から好きな順番で見たり、繰り返し再生をしたり、ソフトの作りによっては別のストーリーに飛んだり解説を見られたりと、自由度の高いのが特徴で、画質、音質も良い。DVDのプレーヤーも価格が一気に下がり、ソフトの出荷も前記した通りだ。VHSに比べて流通の在庫や運送コストが低く押さえられるため、本数の出るものは多少制作コストが膨れようが、DVDの方が圧倒的に採算が良い。最近は1980円という映画のソフトも登場して来た。

 このDVD-Videoの制作工程を大きく分けると、通常のビデオのマスターが出来てからさらにオーサリングという編集とマスタリング、プレスと大きく3段階がある。であるのでマイナーパッケージで採算を得る事は厳しい。アートドキュメンタリーの様な出荷の少ないソフトでは採算ベースに乗らない。
 では、現在可能性のある利用法は何か。幸いDVD-Videoの制作でも、CD-ROMと同様にDVD-Rというレコーダーを使ってディスクを作る方法があり、1枚あたりのコストはかかるが、単品から制作が可能になる。これによりLD(レーザーディスク)に比べて安価に、ビデオテープに比べて高価ではあるが、展示利用やインスタレーション等での高度な映像送出のコントロールが可能になり、今後様々な応用が考えられる。

展覧会やインスタレーションのために
制作したDVDディスク
 例えば展覧会で解説的な映像を常時モニターに表示する事もできる。ビデオテープの様に巻き戻しに時間は不要なので、画面がブランクになって鑑賞者の足止めになることもない。映像展示に関しても同様である。ある程度の時間のものをループで流す場合などでも、来館者の少ない場合は視聴者がスタートを選べばすぐに最初から視聴できる。
 またビデオを使ったインスタレーションでマルチモニターを使う場合など、これまではビデオテープで同期をとることが大変であったが、DVDでは業務用プレーヤーを使えば完全な同期で送り出し可能である。またプレーヤー自体が小型な物もあるため、立体作品などに仕込むなど新たな利用方法も考えられる。
 また海外での展示を考えた場合、これまでNTSCからPALへの高価な変換を強いられていたが、DVDを制作する場合に*リージョンフリーで作っておけば、基本的には世界中どこでも再生が可能である。先日私が参加したナポリの映画祭へもDVDからPALベータカムへ現地でコピーしてコストを抑えることができた。
 ここまで書くと何かDVDに仕上げるのが最も良いと思われるかも知れないが、実際はマスターテープからDVDのMpeg2というフォーマットに変換するという事は、デジタル圧縮(データの間引き)を行うため画質は落ちる。そのためマスターと同等画質を保持する事は残念ながらできないし、現在のハードのクオリティーでは、CD-ROMを作る様に簡単に制作できず、経験によるアナログ的ノウハウが必要なことは、あまり公表されていない。
 しかしながら、前記した様に見る側の使い勝手を考えるとビデオテープには出来ない送出や、マルチ言語、インターネットへのリンクなど、今後アーカイブ用途などでもユニークな利用が可能である。
 展示室に入って、たまたま巻き戻しの時間に当たった経験をお持ちの方も少なくないと思うが、これからはプロジェクターの電球切れやオーバーヒート以外は待たされる事はない。


*リージョンフリー
DVDの映像がVHSなどに比べて高品質なために不正コピーの増殖を防ぐために世界をいくつかの地域に区分けし、地域番号を割り振ったもの。ちなみに日本は西ヨーロッパと同じリージョン2。アメリカは1なので、日本で発売されているプレーヤーではアメリカで購入したディスクは再生出来ない。ただし、その番号の符合を挿入しないでディスクを作った場合、どこの地域でも再生が可能。それをリージョンフリーと呼ぶ。一部のメーカーのプレーヤーで全てのリージョンのディスクが再生できるものもある。本来製造は認められていないが、インターネットなどで販売されており、リージョンフリーのプレーヤーと呼ばれている。
 また、このリージョンコード以外にもコピープロテクトプログラムが挿入されているので、市販ディスクからのコピーは通常出来ない。このコピープロテクトを挿入するには量産プレスをしなければならない。単品制作したDVD-Rディスクはコピーが可能。さらにDVD-Rには量産試作用のForオーサリングと、一般用のForジェネラルがあり、コピーが可能なのは前者。要するに著作権の問題がからみ、システムが複雑になっている。

(2001.2 きしもとやすし/アート・ドキュメンター)


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